アラスカンマラミュートの莱夢のものがたり「第11話 はじめての雪」です。

アラスカンマラミュート Prime Snow 〜莱夢といた日々〜

 第11話 はじめての雪 

 莱夢がはじめて雪に触れた日・・・。それは2000年の2月5日だった。水かさが減った山中湖の湖畔に雪が降り積もり、まるで雪原のような白い岸辺が続いていた。打ち寄せるさざなみは、水晶のかけらを混ぜたように砕けながらキラキラと光を放ち、繰り返し繰り返し寄せては返っていく。霊峰富士を望む湖畔は、緩やかな弧を描いた白い水際と、峻烈で青く冴え渡った水、そしてどこまでも高く蒼い空とのコントラストが眩しかった。

アラスカンマラミュート 画像 この小さな雪原で、莱夢をはじめてフリーにした。莱夢は一瞬とまどったが、次の瞬間には雪原を駆けまわり、躍り上がるように飛び跳ね、雪の上を転げまわった。雪の感触を、彼女の遺伝子が覚えているのだろうか?ためらいもなく雪まみれになって遊ぶ莱夢。その姿こそ、マラミュート本来の姿なのだろう。莱夢の中に眠る、野生の一端を垣間見た気がした。

 莱夢は遠くに行くわけではなく、私の姿を確認しながら遊んでいるようだった。戯れに私が隠れると、慌てて探し回った。「莱夢!」と呼ぶと、「そこにいたの!」とばかりに笑顔で駆け寄ってくる。「ノーリードにしたら、どこかへ行ってしまうかも」という不安は、淡雪のように解けていった。

アラスカンマラミュート 画像 しかし、ひやりとした場面もあった。湖に沈んだ看板が、ちょうど湖面から三角を描いて覗いていたのだ。莱夢はその看板が気になるらしく、ジャブジャブと冷たい湖に入っていった。「莱夢!おいで!!」と何度も呼んだ。莱夢は振り返って私を見て、「どうしよう。行こうかな?戻ろうかな?」と考えたようだ。四肢がすべて水に没してしまったとき、私は寒中水泳する覚悟を決めた。が、莱夢はさすがに躊躇したらしく、尻尾を高々と挙げつつ戻ってきた。

 莱夢の身体をタオルで拭き、午後の太陽に当てて乾かす。さすがマラミュート。オーバーコートが水を弾き、フワフワの綿毛はさほど濡れていなかった。真冬の山中湖の空気は凛と張り詰めて冷たく、ときどき吹き抜ける風は頬を切り裂くように痛かった。木立の向こうに見え隠れする青い湖を眺めながら、陽だまりを選んでしばし散策を楽しんだ。閑散とした山中湖だが、それでもちらほらと観光客に出会った。莱夢は会う人みんなに愛想を振り撒き、さんざん撫でてもらった。すっかりご満悦の莱夢だが、そろそろ疲れたようだ。冬枯れた舗道に莱夢の影が長く伸びる頃、ゆっくりと帰路についた。

 帰りの車の中で、心地よい午睡をまんまるになってむさぼっていた莱夢。その満足そうな寝顔に、「また来ようね」と約束した私。本来は極寒のアラスカで暮らすこの子と、こんな暖かい日本でともに暮らしている。だからそこ、せめて雪の季節にはできるかぎに雪遊びをさせてあげたいと思う。