アラスカンマラミュートの莱夢のものがたり「第7話 教育ママ!わたしがボスよ!!」です。

アラスカンマラミュート Prime Snow 〜莱夢といた日々〜

 第7話 教育ママ!わたしがボスよ!! 

 アラスカンマラミュートは、温厚で賢く、幼い子供とも安心して遊ばせられる犬種だ。ついでに、無駄吠えや体臭が少ないのも好ましい。でも、「野性味を残した、狼に近い犬種」とも言われている。つまり、順位付けの厳しい犬種だってことだ。

 莱夢もマラミュートらしく、人間に対してとても友好的な子だった。人間に対して吠えたり唸ったりしたことがなく、じゃれて噛んでくることはあっても、決して本気で噛まない子だった。性格はとても陽気で、いつもキャピキャピしていた。だからと言って、決して油断できない。莱夢に対する順位付けはかなり厳しく行った。誰がこの群れのアルファなのか、莱夢が自然に悟れるように工夫した。食事は1番最後だし、人間が座るソファーには決して座らせない。可哀想かもしれないが、群れのアルファは1番はじめに食べ、1番居心地のよい場所で寛ぐのだから当然の行為だ。そのほかにも、常に私が主導権を持つように意識して接した。

 莱夢を叱るときは、「痛み」ではなく、「不快(気持ち悪いこと・権力を誇示されること)」と「言葉」で判らせるように気をつけた。「いけない事をすると、嫌なことがある」と思わせるようにした。たとえば、「NO!」と低く言い放った後、「ふんだ!もう嫌いだよ。知らないよ」と無視したり、「NO!」と低く言いながらマズルを掴んで押さえたり、首根っこ(掴まれても痛くない場所)を掴んで強く揺さぶったり・・・・。母犬やアルファ犬が子犬を叱るやり方を真似たつもりだ。そのやり方でも莱夢が判らないときは、お尻やあごなど、莱夢からは見えない場所を軽く叩いた。(「手」で叩かれたことを知ってしまうと、「手」自体を恐がるようになってしまう。莱夢にとって、「手」は「いつも優しく撫でてくれるもの」にしてあげたかったので・・・)もちろんそれらの叱り方は、「いけない事」の内容によって使い分けた。そして、叱った後は必ず仲直りし、莱夢の得意なことをさせてたくさん誉めるように心掛けた。

 なぜ、「痛み」で教えなかったのか?私は「痛み」が「恐怖」へと変わることを怖れた。飼い主に対して恐怖心を持ってしまうと、犬は人間自体を恐れるようになる。恐怖から攻撃的になり、飼い主以外の人間に対して、唸ったり吠えたりするようになりかねない。私は、莱夢をそんな子にしたくなかった。恐怖による支配では、本当の信頼関係は築けない。力での支配はいつか力で覆されるから。莱夢とは、愛情と信頼で結ばれたいと願っていた。

 順位付けと同時に、「座れ」「待て」「フセ」などの服従訓練もはじめた。まさに莱夢が来た翌日から、さっそくしつけがはじまったのだ。莱夢にまっさきに教えたのは「座れ」だった。ショーに出陳する上で、座る習慣はよくないけれど、室内で暮らす莱夢には絶対に必要な習慣だった。

 サーカスの猛獣使いは、猛獣を服従させる「チャームアイ」を持つという。動物にとって目と目を合わせる「アイコンタクト」は、とても支配的な行動らしい。莱夢は人間の目を見ることも、人間に見つめられることも、ごく自然にできる子だった。しつけの基本となる「アイコンタクト」を、莱夢は自然に覚えていた。また、莱夢はとても好奇心旺盛で、私の言葉や行動に興味を持ち、集中できる子だった。そんな莱夢だったので、「座れ」を教えるのは簡単だった。オヤツを鼻先にぶら下げてお尻を軽く押し下げると、莱夢は自然に座る姿勢になった。そのとき、必ず「座れ」と声をかけるようにした。ちゃんと座ったら、「グッドガール!」と誉めながらオヤツをあげる。私の「座れ」というコマンドと、莱夢自身が座る行動を徐々に結びつけていく。莱夢は、「座ると美味しいものがもらえる!」と理解したらしく、数回で覚えてしまった。

 今思えばずいぶん可哀想なことをしたと思う。当時の莱夢は人間でいうと2歳くらいだったのだから。優しいママや仲良しの姉妹、大好きなブリーダーさんから引き離され、莱夢は淋しさと不安でいっぱいだったはずだ。信頼関係なくしてしつけは成功しないのに、ずいぶん急いでしまったと反省している。それを気付かせてくれたのは、莱夢のささやかな抵抗だった。