アラスカンマラミュートの莱夢のものがたり「番外編2 獣医さんを変えた理由」です。

アラスカンマラミュート Prime Snow 〜莱夢といた日々〜

 番外編2 獣医さんを変えた理由 

 2001年現在、お世話になっている獣医さんと、伽凛に避妊手術を施してくださった獣医さんは、まったく違う獣医さんだ。なぜ、途中で獣医さんを変えたのか?それにはこんな顛末があった。

 以前通っていたA病院は、自宅から車で10分〜15分の場所にあった。若いご夫妻が獣医師を勤め、数人のトリマーさんや看護婦さんもいるキレイで明るい病院だった。設備も整ってるし、先生も親切で熱心だったが、たったひとつだけ不満があった。それは、診察室に私が入れないこと。受付を済ませると、看護婦さんが笑顔で「お預かりします」と伽凛や莱夢を診察室へと連れ去ってしまうのだ。不安そうに私を振り返りながら、伽凛も莱夢も診察室の奥に消えてしまう。受付の小窓からかろうじて診察台が見えるが、覗き込もうにもどんな診察をしているのかよく見えなかった。伽凛と莱夢の不安な気持ちを思うと、とても切なかった。「大丈夫。お母さんが一緒にいるよ。」そう言って励ましてあげたいのに、私は待合室で待つしかできないのだ。それに、診察室で聞きたいこともいっぱいあった。

 「この子は太ってますか?やせてますか?」
 「全体的に健康状態はいかがですか?」
 「最近、あまり食べないけど、大丈夫でしょうか?」

 動物は言葉で伝えられないだけに、飼い主である私が察してあげなくてはならない。初心者ゆえの不安や悩みを聞いてほしいし、日ごろ注意することなども聞きたかった。だけど、診察室に連れ去られ、必要な処置が終わるとあっという間に待合室に返されるシステムのA病院では、そういったコミュニケーションがとれなかった。 いざ、物言わぬ最愛の家族が病気になったとき、私たち飼い主は全身全霊で獣医さんを信じ、全てを託すしかない。獣医さんの言葉が全てになってしまうのだ。コミュニケーションが上手くとれない関係では、信頼して全てをゆだねることなんて、きっとできない。

 そんな2000年の春先、駅へと向かう道の途中に新しいマンションが建った。1階部分は「テナント募集」となっていて、ガランとしたコンクリートの打ちっぱなしが寒そうだった。4月くらいだったろうか、いつのまにかテナントが決まったらしく、忙しく工事関係者が出入りし始めた。私は通勤途中や莱夢の散歩がてら、工事の方々の作業をなんとなくながめていた。

 そのテナントがどうやら動物病院らしいと気が付いたのは、工事もほぼ終わって看板が出来上がったころだったと思う。この病院こそ、今お世話になっているT病院だった。私はドキドキした。診察室には私も入れるシステムだろうか?いつオープンするんだろう?先生はどんな方だろう?完成した病院の窓ガラスに、「5月某日オープン」のポスターが貼り出された。それから数日経ったある夜、完成したばかりの病院を掃除している若いご夫妻をみかけた。夕闇にぽっかりと浮かぶ、柔らかく暖かい灯りの中、熱心に床を掃除する女性の姿と長身な男性の姿が印象的だった。きっと、あの男性が獣医さんだろう。さて、いつ、どんなタイミングでこの病院を訪れようか・・・。

 6月のある日、私は意を決して家を出た。莱夢のフロントラインを頂きに、T病院を訪れる決心が付いたのだ。病院の真新しいガラスドアを開けて中に入ると、いつかの男性が笑顔で迎えてくれた。私がカルテ用の書類に住所や名前を書いている間、莱夢は床に転がってお腹を見せ、嬉しシッコをもらしながら愛想を振り撒いていた。そんな莱夢のお腹を、先生は床に跪いて、とびっきりの笑顔でなで擦ってくれた。その姿を見て、なんだかホッと安らいだ気持ちになった。A病院では万事が事務的で、どこか機械的で冷たさすら感じたのに、この病院の暖かい雰囲気はなんだろう・・・。なんだか、とっても頼もしい気がする。

 でも、本当に驚くのはここからだった。ただフロントラインを頂きに来ただけの莱夢を、診察室へと案内してくれたのだ。もちろん、私も一緒に・・・。先生は莱夢を優しく抱え、ゆっくりと診察台の上に乗せた。そして、耳の中や目、口の中、歯、爪、心音、お腹、肛門と、莱夢の全身をくまなく診てくださった。その際、「大丈夫、痛い事しないよ」とか、「ああ、落ち着いてますね」とか「莱夢ちゃんはいい子だね」とか、いっぱい言葉をかけてくださった。莱夢はちょっぴりドキドキしながらも、とても落ち着いていた。先生が大好きになったようだ。先生は診察を終え、莱夢の体重や健康状態を丁寧に説明してくださった。A病院では、このような親身な説明は受けたことが無かったのに・・・・。また、フロントラインの仕組みや薬の効果も詳しく説明してくださった。A病院では、受付の看護婦さんが簡単に説明してくれるだけだったのに・・・・。先生の「お大事にどうぞ」という明るい声と、90度のお辞儀に送り出され、私たちは家路についた。帰り道、「伽凛も莱夢もこっちの病院にする〜!!」と、力いっぱい思ったことは、言うまでもない。

 こうして、今でも伽凛と莱夢はT病院に通っている。莱夢は相変わらず先生が大好きで、散歩の途中で病院の前を通れば、必ず「先生、いるかな?」って覗き込む。注射や採血で痛い思いをしても、やっぱり先生が大好きなようだ。先生好きが講じ、莱夢は自分から診察台に飛び乗る、ちょっと変わった子になった。